おわりに

 順序不同で思いついたままの感想を述べる。

(1) ドロミテは、夏季のシーズンの終わる直前の9月の上旬に行ったが、天気は概ね良く、寒くもなく強風の日もなく、なおかつ観光客は少なく、良かった。旅行前に、車で周った他の方の旅行記を拝見し、ヘアピンカーブを少し心配して行ったが、道路はよく舗装してあり、対向車も少ないのでマニュアル車でもエンストは、ほとんどすることはなかった。

(2) イタリアは、北と南では人間が違うとよく言われるが、確かに安全面で、今回の旅行で危険を感じたことは全く無く快適な旅であった。

(3) アルプスの一角にすぎないドロミテも、すばらしい山の連続で、その多さで驚いた。一方、歩いて周ったわけではないので達成感に助長される特別な感動は少なかった。山は高さではなく、その特徴的な形で価値が決まる気がする。ボルツァーノの東側の山岳地帯は、日本でも知られていて、団体旅行も多く企画されているが、むしろ知られていない西側に良いところが沢山あることが分かった。山のみならず温泉もある。今回の一番の絶景は、ボルツァーノの、かなり西のスイス国境に近いステルヴィオ(Stelvio)峠であった。

(4) 世界遺産に対する考え方が、イタリア人と日本人では根本的に違うことが再認識できた。イタリアなどは文化財の保護を第一目的に選んでいるのに対し、日本は観光客の集客増加の目的から申請しているように思える。このイタリアで、世界遺産の第1号が今回行ったカモニカ渓谷の岩絵群で、第2号がドロミテであることが、このことを示している。したがって、今回も観光客がゼロに近い世界遺産を2ケ所(カモニカ渓谷とクレスピ・ダッタ)実見した。世界遺産ではないが、飲料水生産で有名なサン・ペレグリノの、かっての繁栄と現在の凋落の落差の原因が分からない。

(5) 総じて、観光における好奇心はイタリア人(ヨーロッパ人)よりは日本人の方が旺盛である。日本人は、折角、遠方まで来たからという理由もあって、渡り鳥観光で、なるべく多くの場所の訪問を好むが、ヨーロッパ人観光者は、ゆっくりと食事をしたり、お茶を飲んで時を過ごすのを好むようである。美術館・博物館を訪問したり、景色のよい山頂や塔に上る人の割合は大変少ない。

(6) 北イタリアは、ドイツやオーストリアに地理的に近いことや、かってはドイツ語圏の領地であった場所なので、地名や山名はドイツ語を併記しているところも多く、ドイツ人(あるいは、オーストリア人)の観光客は大変多い。交通の便が悪いことや、まだ日本では知られて無い場所が多いので、日本人観光客は少なく、中国人もほとんどいなかった。

(7) どんな観光地でも教会はあり、よく整備されている。また、第2次世界大戦に関連した慰霊碑・記念碑も随所にあった。しかし、それらに対する一般の関心は今や極めて低いように感じられた。例えば、コモ湖畔の一等地にあるレジスタン運動で処刑された人々の遺言碑(日本語にさえ訳されている)の広場(Hiroshima)は、訪問する人さえ、まばらで「地球の歩き方」にさえ一言もない。