VI. おわりに

・ほとんど、歩くこともなく、最先端のロープウイと、帰路、バスで帰れるモンブラン・トンネルという文明の利器のお陰で、数十年前ならできないことが簡単にできた幸せを感じる。好天下、雲も少なく、ほぼ無風、割合温暖な気温下で、絶景を満喫できた。

Mont Blancなどの見物に、イタリア側から入って、フランス側には行かず、Helbronnerで引き返すツアーが、日本の旅行社で組まれているのを広告で昨今よく見るが、その先のAiguille du Midiまで行かないと一番良いところに行かないことになり、大変もったいない。

徒然草の第52段の「仁和寺の法師」という有名な話を思い出す。岩清水に参るつもりで行って、よく見て来たと大変満足して帰って来て、周りの人に言ったら、実は肝心の所には行っていなかったことを知らされた。教訓としては、「少しのことにも先立ちはあらまほしきことなり」ということで、私も、旅行する度に、よく調べたつもりで行っても、このような失敗を、1つや2つはする。団体旅行では、旅行社という案内人がいても、イタリア側のHelbronnerで、帰ったら、このようなことになるのだろうと想像する。また、日程的に、天気の悪い時に行かざるを得なかったら、これは自分自身も満足できず、これは喜劇でなく悲劇になろう。

Chamonix側から入って、Courmayeurに抜けた方の旅行記を読んだら、この逆のコース(すなわち我々が今回通ったルート)の方が良いだろうと述べておられたが自分もそう思う:http://aimi.jp/alps/200707chamonix/20070731-2.html)。

Mont Blancは、Chamonixの街の中心からは見られず、反対側の見晴らし台に行かねばよく見えないらしい。街からよく見えるのは、Dome du Gouter (4304 m)であることが後で分かった。ならば、Chamonixの正式名をわざわざChamonix-Mont-Blancとするのは、一種の誇大広告のようにも思える。

Mont Blancは、Chamonixからは見られなかったが、La Salleから見たものは、Aig. du Midiから見るより、むしろ美しい。山は、近づいた方が、美しいとは限らないと思う。Matterhornも、近くのZermattから見るより、離れたGornergratから見たほうが美しい。以前に、次のような狂歌を作ったことがある。「富士山と年寄り撮るなら遠くから 山は大きく 人は小さく」。山は高いからより美しいとは限らない。周りに多くの山があるより、孤立して、見ただけで、山の名前が分かる方がよい。その点、富士山 (3776 m)は、Mont Blancよりは1000 m以上低いが、見事な山で、今まで見てきた世界の山で一番美しいと思う。

Mont Blancのように、国境付近にある山は、周囲の国からは、それぞれの言語で呼ばれることが多い。日本人に知られる名前は、よりメインな言語名なのであろう。例えば、イタリア語では、Monte Biancoと言われるが、フランス語の方が、イタリア語より知られている。Matterhornは、今回の旅行でも見に行ったが、スイスとイタリアの国境にあるが、イタリア語のMonte Cervino(モンテ チェルビーノ)は、日本では知られていない。更に、今回、フランスの表示板にはCervin(セルヴァン)という名前の表記があって、これが、Matterhornのフランス語名だと初めて知った。

・山の見物は天気が一番大事なので、La SalleB&BLa Paquerette:1泊54.56 €、フランス語でヒナギク;寝室兼居間とシャワー付きトイレ)は、4泊(3日間:ここから日帰りで予定の場所に行ける日数)予約し、天気の良いときに、このコースを行こうと計画していたが、1泊後に好天だったので、早速、決行した。後の2泊後も天気は良く、この季節には、この地方は、好天の日が多いようだ。それで、畑ではスプリンクラーで散水している。

 このB&Bは、1組しか泊まれなく、6ケ月前から予約した。地図では、高低差がよく分からなかったが、かなり急な坂を登らねばならなかったのと、近くでも、場所を知っている人がいないのと、近くにレストランがないので、初日は、多少困った。女性オーナーは大変親切で、置き忘れた帽子を、先方で気づき、後で泊まるGenovaのホテルまで、わざわざ郵送してくれた。部屋は、垣根なしで、畑に続き、そこから最初に示したように(Mi1)、モンブランが良く見える。

・7,8月の方が、より良いかもしれないが、バカンスシーズンだと、特に、今回のようなところは、ロープウイ、ホテルなどが大変混んでいると考え、9月の初旬を選んだが、正解であった。ただし、成田を830()13時に出発する際、丁度台風20号が、接近したが、わずかに外れて、定刻どおり出発できた。初日に泊まるホテルへの、遅れる可能性などを伝えるのに苦労した。

丁度、1週間後の98日の午後に、このロープウイで大変恐ろしい事故が起こった。ネットで調べたら以下のような記事があった。

[99AFP通信]フランスアルプスの高峰モンブランで8日午後に氷河の上を通るロープウェーが停止し、標高約3800 mの位置で宙吊りとなったゴンドラに乗客が取り残された問題で、ロープウェーの運営会社は9日朝、運行を再開したと発表した。ゴンドラ内では10歳の子供を含む33人が一夜を過ごしたが、9日午前中に全員、地上に見通しだ。

 運営会社モンブラン社(Mont-Blanc Company)のマテュー・ドゥシャバンヌ(Mathieu Dechavanne) 最高責任者(CEO)は、9日午前8時前、運行停止の原因となっていたワイヤーロープのもつれが解消され、ロープウェーが「5分前に運行を再開した」とAFPに語った。

 ロープウェーが停止した際、複数のゴンドラに乗っていた110人が宙吊り状態で取り残されたが、ヘリコプターを使った救助作戦で救出されたり救助隊の支援を受けて自力で伝い下りたりして、夜までに77人が脱出に成功していた。

この事故のニュースはトリノで宿泊中、妻がテレビで見ていたが、イタリア語で、特に映像もなく、よく分からず、私も、モンブランで何か起こったと知らせられたが、メール打ちで忙しく、あまり気にせず、帰国後に調べて分かった。日本でも時々、電車、エレベーターなどに閉じ込まれる事故が報道されるが、これが、ロープウイの事故となれば、その恐怖などは、いかばかりかと思う。ヘリコプターが来たというので、食料、毛布、簡易トイレなど差し入れたかと思うが、そして、自分も時々、それの対策はと思うが、今回、ロープウイに乗るに当って、そういう準備をしていなかったことを反省した。こういう楽しい旅行でも、こういう危険が伴っていることを知る。

・一方、雪渓を歩いている人、岸壁登りをしている人、ハンググライダーを楽しんでいる人を見て、こういう人は、自己責任で、実行していると思うが、どれくらい、この付近で事故があるのか、ネットで調べたら、今年は多く、11月初めまでで、約20名亡くなっているとのことである。ある種の人には、山は生命を賭けるほど魅力があるのであろう。

・今回の旅行に行くにあたって、イタリアの、特に新しい情報がいるので、「地球の歩き方」のイタリア編2016~17編を購入した。表紙には、今回、周った雪原の風景を表していて、この本の最初にも、今回、我々が通ったコースの説明が詳しく出ている。しかし、この型のロープウイが運行しているのは、フランス側で、イタリア側は、色が黒く、360°回転することが売り物の車両が運行している。目くじらを立てて文句をいうことではないが、車体が黒いと絵にならないので、フランス側の赤いゴンドラを用いたのだろう。

・日本語で「アルプス」(通常、日本語には単数・複数の概念は無い)と称している語の英語名は、Alps(発音は、日本語に、ほぼ同じ)、フランス語名はAlpes(アルプと発音し、女性複数名詞;地域を表すalpe(女性単数)という語もある;なお、Mont(山;モン)は男性単数)、ドイツ語名は、Alpen(アルペンと発音し、女性複数)、イタリア語名は、Alpi(アルピと発音し、女性複数)である。

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ロープウイの事故現場:上下のワイヤーが絡まったとされる。何故、そういうあってはならない事故が起こったかは、分からない。ゴンドラの色と形から、イタリア側で起こったことが分かる。

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援助に向かうヘリコプター。

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Entrevesのロープウイ乗り場における事故翌日の早朝の、慌ただしい状況。本来なら、無人の時間帯であるが、車が来ているのは、救助隊の人か、遭難者の家族の方のものであろう。平常時の、この場所の写真は、Mi5II. イタリア側1)とMi2-9 (V. イタリア側2) に示してある。

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「地球の歩き方」2016~17年版の表紙は、Helbronner-Aiguille de Midi間のフランス側のゴンドラを表しているが、。。。(以下、本文に記述)。