アイスランド−イギリスのお隣のアイルランドと間違えそうな国名で,日本人にはあまりなじみが無いかもしれない。北アメリカ大陸とヨーロッパ大陸とのほぼ中間の,北緯60度以上の大西洋上に位置する島国である。人口27万人,首都レイキャビク市の人口が10万人であるから,ちょうど高知県と高知市の人口を三分の一ずつに縮小した規模である。ただし,国土面積は北海道とほぼ同じであるから,人口密度は桁違いに低い。

一方,一人当たりの国民所得は年間30,000ドルと,日本と遜色なく世界のトップクラスである。本当かな?と思い飛行機を下り立つと,手付かずの大自然と見事に調和した豊かな国であることに驚かされる。茨城県水戸市の人口規模で独自の外交を行い,通貨を発行し,航空会社まで経営していることは驚異的である。

コンクリート技術者が国全体で100名程度という規模ながら「アイスランドコンクリート工学協会」が組織されている。さすがに日本のコンクリート工学協会のように年次大会を開催するほどの規模ではなく,他の北欧四ヶ国(スウェーデン,デンマーク,ノルウェー,フィンランド)と共に「北欧コンクリート工学会」を組織し,持ち回りで大会を隔年開催している。この五ヶ国の人口を合計しても日本の五分の一弱ではあるが。

コンクリート工学上,アイスランドで特筆すべきはフレッシュコンクリートのレオロジー技術である。国立建築研究所のオラフル・ワレビック博士は世界的に有名なレオロジーの大家であり,さらに彼が独自に開発した二重円筒型粘度計は世界中で使用されている。さらに毎年レオロジーセミナーを開催し,ヨーロッパ中から人を集めている。レオロジーを武器に世界中を飛び回る姿は,まさに現代のバイキングである。

航空機が発達した現在,規模は小さくても「ここにしかない」ものがあれば,辺境であっても世界中から一目置かれる存在となることが出来る。アイスランドはそのことを実証している。

もっとも,地球が球体である以上,ある地点から見た辺境は,広く眺めれば実は交通の要衝となる可能性もある。アイスランドはヨーロッパとアメリカのちょうど中間という場所である。ロンドンへ3時間,ボストン・ニューヨークへは5時間という便利さである。日本国内では辺境と位置付けられてしまう沖縄も,東アジア全体を眺めれば,東京までの距離内にソウル・台北・上海・北京・香港・マニラが入るという地の利がある。

話が脇道にそれたが,日本の建設業界も,工事の量ではなく,技術力で稼がなければならない時代がそう遠くない将来にやってくる。その際,小さくてもきらりと光るアイスランドのような国があることを心に留めておくことが必要だと認識するに至った。

美しい自然そっちのけでこんなことを考えさせられるアイスランド紀行であった。

なお,首都レイキャビク市にいても遠出をしても,目にすることの出来る自然の美しさにそれほど差が無いのがアイスランドの特徴である。しかし,わずか日帰り程度でも足を伸ばすと,驚異的な大自然(地溝,滝,緑の苔に覆われた山,間欠泉,氷河など)にじかに接することが出来る点でお勧めである。レイキャビクから日帰り旅行を二回すると,アイスランドの見所をほぼ網羅することができる。

高知工科大学助教授 大内 雅博

↑レイキャビック市に迫る大自然

↑アイスランド首相官邸

↑ハトルグリム教会

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