祭り街道探訪記
           武本宏一 

 あなたは長野県の南部に「祭り街道」という、四季を通じてユニークな祭りが
展開する街道があるのをご存知でしょうか。
 
 昨年私は、ふとしたご縁があって、新風舎という東京青山の出版社に勤務する
ことになりました。ここで同社が、上記の名前を冠した「祭り街道文学大賞」という
ある地方都市の文学賞を応援していることを知り、旅行作家として大変興味を
そそられ、その舞台である阿南町をいつかは訪問したいものだと念じていました。
 
 秋のはじめ・・・、そのチャンスがやってきました。
 阿南町で開かれる、第2回のその文学賞の選考会に立ち合ってみないか、
というのです。
新野の盆踊り
かじかの湯
獅子頭を鎮めている
“しずめ”
 名古屋でレンタカーを借り、北上すること約3時間・・・。
恵那の山々をくぐり天竜の
激流をかすめてやっとたどりついた
山あいの町、それが長野県下伊那郡阿南町。
 というと大変な秘境のようですが、35年も昔に、カバ先生の
あだ名で知られた
阿部進氏をレポーターにテレビ旅番組
「遠くへ行きたい」を私が演出した、あの中山道
の馬籠や
中津川からもさほど遠からぬところでした。

 もし列車を利用すれば、豊橋発のJR飯田線で約40分の
温田(ぬくた)駅で下車、
クルマで15分ほどの近さです。
 しかし、周囲をもみじに彩られた静かな山村風景は、
まさに日本の秘境あるいは
原風景と呼んでもおかしくない懐かしさにみちていました。
新野の雪まつり

犬の首を頭にのせた
“犬坊の墓”

創建時のままの
“瑞光院の三門”
深見池

高台の桜は
山里の風景に溶け込む
関氏最後の
権現城があった峰

 さて、午後2時に町役場2階の会議室で、町長主催の「祭り街道文学大賞」選考会
がはじまりました。
 この町、この街道をテーマにした小説や詩・エッセイなどを全国から募集し、優秀作品
を顕彰した本として出版しようというこの試みは、町の活性化をねがって考え出され、
平成16年にスタートしたもの。
 田中康夫知事も大賛同している文学賞です。
 
 第1回には252本もの多くの作品が寄せられました。しかも作品のレベルも大変に
高いものでした。



■第1回祭り街道文学大賞 
大賞受賞作
『女人囃子がきこえる』
著者: 南ふう
■特別賞
『風来マジシャン
阿南町の旅』

著者: 高橋正樹
■優秀賞
『冬の夕顔』
著者: 曽田圭
■優秀賞
『さるすべり』
著者: 村田さやか
■優秀賞
『ある恋の軌跡』
著者: 峯美文
■優秀賞
『町ごと祭り王国』
著者: 村上省吾
■優秀賞
『群舞』
著者: 宮本治久

 第2回の今回は、前年を上回る324本もの応募作品が寄せられています。
選考委員たちは予想をこえる大反響にびっくりしつつも、納得の表情・・・。
 というのも、この一帯には人の心をひきつけてやまない民話・伝承や祭りなどが
手つかずのまま、いまも息づいているからです。
 
 阿南町を南北につらぬく遠州街道。ここには国文学者の折口信夫がこれぞ祭りの
原点と激賞した「新野の雪祭り」はじめ数多くの祭りがおこなわれ、祭り街道・・・と
呼ばれています。
 信長や信玄、そして家康らの英傑も、かってはこの街道の旅人でした。
 
 井上靖の「犬吠狂乱」のモチーフとなった犬吠伝説もこの地のものです。
 
 こうした歴史遺産こそが、北海道から沖縄と全国の方々の表現意欲を刺激して
やまないのでしょう。
審査選考会の様子

 夕闇が迫る頃、選考会は激論の末、やっと終わりました。
わたしたちは今、快い興奮をしずめるべく、町民たちの憩いの場、かじかの湯の
湯船に身を沈めているところ。
 選考会で披露された伝記ロマンのみごとな世界を思い出しつつ、私もいつか
この祭り街道を舞台に、心を焦がすような恋愛小説を書いてみたいなあと夢想して
いるのでした。

祭り街道の里 阿南町(あなんちょう)公式ホームページ

街道祭り暦
1月14日 伊豆神社
新野の雪祭り
(にいののゆきまつり)
【国重要無形民俗文化財】
能や狂言などの伝統芸能の原点とも言われ、14日深夜から15日明け方に
かけて、田楽・神楽・猿楽・田遊びなど芸能の原型が次々と繰り広げられます。

1月第2日曜日 早稲田神社
早稲田人形神送り(わせだにんぎょうかみおくり)
【国選択無形民俗文化財】
1年間の無病息災と安全を願う正月の儀式で、幣束を持った人形を先頭に
行列を組んで神送場に向かい、空に向けて弓矢を射た後、後ろを振り返る
ことなく集落に帰ります。

4月29日 日吉
日吉のお鍬祭り
(ひよしのおくわまつり)
【町指定無形民俗文化財】
五穀豊穣と虫送りの行事として、鉄製の鍬を御神体に祇園囃子を練り
歩きます。


4月29日 新野
行人様御開帳
(ぎょうにんさまごかいちょう) 
春季祭典

全国でも16〜10体しかない即身仏のうちの1つで禅僧では唯一の
存在といわれています。

7月第4土曜日 諏訪神社
深見の祇園祭り(ふかみのぎおんまつり)
【県選択無形民俗文化財】

神輿を乗せた大?が深見の池を漂い、祇園囃子に合わせて花火の閃光が
湖面を染める中で神事が進められます。その後、神輿は神社へ運ばれ、
大三国花火の火の粉が飛び交う中、勇壮な気負いが続きます。


8月13日〜16日 熊野神社・林松寺
和合の念仏踊り
(わごうのねんぶつおどり)
【国選択無形民俗文化財】
紙のシデをつけた菅笠を深くかぶった裸足の踊り手が、念仏や和讃を唱え
ながら太鼓や鉦、ヒッチキの激しいリズムに合わせて、躍動的に踊ります。

8月14日〜16日・24日 新野
新野の盆踊り
(にいののぼんおどり)
【国選択無形民俗文化財】

三味線や太鼓などは一切使わず、音頭取りと呼ばれる進行役の歌に
輪になった踊り手が唱和して、14日から16日までの3晩、夜を徹して
踊り明かされます。(24日の晩はうら盆として踊りが行われます。)


8月第4日曜日 早稲田神社
早稲田人形浄瑠璃
(わせだにんぎょうじょうるり)
【国選択無形民俗文化財】
無病息災を祈願して「三番叟」が奉納されます。男役・女役・太夫・三味線といった「お家芸」として
代々受け継がれてきています。


9月敬老の日の前日 新野
行人様御開帳(ぎょうにんさまごかいちょう)
秋季祭典
秋の御開帳の日には、鉄下駄駅伝レースや大煙火大会があわせて行われます。

10月第1土曜日 粟野神明社
粟野の囃子屋台
(あわののはやしやたい)
笛、太鼓、三味線により「野江の山」「桜」など13曲を交互に演奏しながら、
宵祭りにお囃子が奉納されます。


12月13日 伊豆神社
12月14日 諏訪神社

新野の霜月神楽
(にいののしもつきかぐら)
各神社において霜月の湯立神楽が奉納されます。



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