トスカーナの憩い
          佐藤 成生
マッサ・マリッティマはフィレンツェから鉄道で3時間、フォロニカからバスに乗り継いで30分の
ところにあります。トスカーナ丘陵地帯の小高いところに位置しており、人口4万程度のこじんまり
した町です。8月上旬から中旬にかけて滞在しましたが、空気が乾燥しているせいか、気温の割り
に涼しく快適で、朝夕は、何か羽織りたくなるようなときもありました。一帯はキャンティなどの
ワインや、オリーブの産地で、ちょうど滞在中に、カリチ・ディ・ステレ(星のゴブレット)というお祭り
がありました。例年、この時期に、最高のワインで祝杯をあげるというもので、参加者は10€を
払って、ゴブレットを貰います。街角のあちこちに、ワインメーカーが陣取っており、参加者は
ゴブレットに好きなワインを注いでもらいテースティングするわけです。今年は24社のワイン
メーカーと6社のオリーブオイルメーカーが参加、ワインのほか新鮮なオリーブ油を楽しむこと
が出来ました。感心したのは、酔っ払いが居ないことです。もし、ロンドンで、このようなお祭りを
したとしたら、必ず若者の酔っ払いが続出するだろうと英国人が言っていました。永年の間に
築き上げたマッサ・マリッティマの文化なのでしょう。町の旧市街の中心にドォーモがあり、
二日間、野外オペラが開かれました。イル・トロヴァトーレとリゴレットでしたが、夜9時開演、
終わるのは日付の変わる頃、サマータイムとはいえ、夜遅くまで、夏を楽しむ人たちで一杯
でした。残念ながらイル・トロヴァトーレは雨で3回も中断、結局最後まで行かずに終わりました
が、テノールにとって幸か不幸か例のハイCの箇所はありませんでした。このドォーモですが、
13世紀に建てられたものらしく、中には、絵画の名品が飾られています。なかでも、ドゥッチョ作
といわれるマエスタはシエーナのドォーモ付属美術館にあるマエスタとの関連で鑑賞すると
興味深いものがありました。滞在したのは、ドムスという名の、前は修道院だったというところ
でしたが、費用も手ごろで、何よりもまわりの環境、小高いところからの丘陵風景の素晴らしさ、
それに、シンプルで飽きの来ない親しみやすい郷土料理に満足しました。

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 さて滞在の目的は、イタリア語のサマースクールに参加することでした。期間は2週間、主催は
ブリティッシュインスティチュート・フローレンスというところです。事前の評価で上級とビギナーの
2クラスにわかれます。参加者は17名、殆どが英国人で、なかに、米国から4人、ドイツから1人、
東洋から私1人という構成でした。私はビギナーのクラスに参加したのですが、イタリア語はともかく、
参加者との交流が大変楽しい思い出になりました。午前9時から1時までレッスン、昼食後は
ゆっくり休みをとり、夕方、6時ころから、ワインコースと称して、トスカーナ地方のワイン、その歴史、
葡萄の品種、醸造過程など、詳しい解説があり、実際にワインのテースティングをします。
面白いのは、その講義中に、生徒から様々のコメントが飛び出すことです。英国はワインに関して
生産地とは、とても威張れないのに、彼らは、ワインに造詣が深く、講師とのやりとりは機知に
富んでいてあたかも芝居の一場面を見るようです。期間中、ワイン醸造所を一箇所見学しましたが、
広大な土地に葡萄畑が広がっており、醸造工程は清潔な内部と、芸術的なインテリアが印象的
でした。オペラ鑑賞とカリチ・ディ・ステレ参加もサマースクールに組み込まれており、イタリア語
研修を含む、一種のレジャープログラムになっています。語学研修だけに焦点を絞るのであれば、
別の選択もあり得るでしょうが、夏休みを楽しむ一つの選択だと思います。


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