海と山、裸者と死者のコルシカ
岡田 勲
コルシカ写真館
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はじめに
 コルシカは、イタリア語起源で、フランス語では、コルス(Corse)と言い、地中海で4番目に大きな島(8680 km2)
であり、広島県(8477 km2)ほどの大きさで、人口は、約28万人である。昔、世界史で、ナポレオンの生まれた所
として習ったが、それ以上の深い知識は、ほとんど最近まで持っていなかった。今まで、地中海の島々は、多く訪問
してきて、大変、気に入っているので、今回、この島を訪問した(09.5.27-6.13)。個人旅行で、しかも、日本語の
観光書は1冊もでていないので、事前にいろいろ調べねばならなかった。この島も、他の多くの地中海の島同様、
海国であると思っていたが、この小さな島には標高2706 mもの山(チント山)さえあり、実は、山国でもあることが
分かった。その点は日本によく似ていて、風光明媚であり、「美しい国(L’ille de beaute)」と言われている。
なお、ノーマン・メイラー(2007年に84歳で亡くなった米国の作家;「どの国よりも強力な米国が中東で弱いもの
いじめのように行動しているのは醜い」などの言葉を残している)の第2次世界大戦を題材にした「裸者と死者」
の題名を借りただけで、内容は関係ない。ここでは、裸者は、バカンスで日光を求めて来る人々、死者は、
島独特の風習、特に、異状に大きな墓を象徴させているつもりである。
ここ2,3年Euroが(円に対して)安定して高く、昨年(2008)7月頃には、1Euroが170円にも達したが、今回、
出発時には130円台になり、その意味でもよい時期であった。今回は、家内の怪我のため、3月のハワイ旅行
に続いて自分1人の旅行となった。



■ 参考資料
 日本語で書かれた案内書は、まだない。そこで、英語で書かれたLonely Planet Seriesを主に参考にして、
計画を立てた。フランス政府観光局に資料をもらいに行ったが、コルシカに関する役立つものは無かった。

(1)Lonely Planet「Corsica」(2007)
日本語の案内書はないので、定評のある「ロンプラ」を購入してこれに従って、ホテル予約などの計画を
立てたり、現場の案内に使用した。

(2)Le Guide Vert「Corse」Michelin(2000)
ヨーロッパの案内書として定評があるので、フランス語ではあるが、アマゾンを経由して未使用の中古本を
購入する。現地に行ってみて、コルシカの観光案内書は10種類は出版されていることを知る。

(3)田之倉稔著「麗しき島コルシカ紀行―(副題)ヴェンデッタとパオリの夢を訪ねて」集英社(1999)
中学時代の同級生の田之倉稔氏の書いた本書で、この島の歴史・風習の概要を学んだ。この本を
読んだお陰で、観光しただけでは分からない、この地の歴史の片鱗を知ることができた。著者は、
東外大のイタリア語学科の卒業で、長年パリに住み、演劇評論などを行っていたから、イタリア・フランスと
深い関係のあるコルシカについて語るには大変相応しい。「島とは一方で至高のトポスとなりながら、
片方で軽蔑の対象ともなる。」(トポスとはギリシャ語で「場所」の意)という言葉が気に入った。

(4)名称不詳
近くの図書館で借りて読んだフランスの都市に関する書物であったと思うが、著者、書名を書き忘れ、
以後、再度探したが、見つからない。コルシカのことを全般的に述べたものではないが、スケッチの入った
独特の本であった。コルシカで取り上げているところは、アジャクシオの墓、オルメート、ボニファシオの3ケ所
のみという著者が特に気になったところだけという紀行文であったが、興味深かったので、これらは、すべて
見に行った。ボニファシオはどの本も取り上げているが、アジャクシオの墓やオルメートは、この本を読まねば、
見過ごしていただろう。観光案内として、(1)、(2)と並んで、ネットで見られる

(5)日本コルシカ協会のホームページ(http://www1.odn.ne.jp/cah02840/CORSICA/)は大変役立った。
 また、10編ほどの、ネット上で見られる旅行記を、拝見し参考にさせていただいた。
帰国後、次の3冊(6−8)を読んだ。

(6)大岡昇平著「コルシカ紀行」(中公新書〕(1972)
この本の存在は行く前から知っていたが、購入して読んだのは、旅行後である。「レイテ戦記」の著者が、
この地をどう描写するのか、興味があったからである。しかし、たった3泊4日で、ほんの3ケ所の都市しか
訪問していないのに、このような題名をつけて出版することに失望した。最後に出るバスティア空港では、
サン・テクジュペリが最後に飛び立った記念碑(ba1)があることを知りながら、時間があるにもかかわらず
探しもしないでアルコールを飲んでいたのには、この人は、誠実な方である思っていた私が思い違いで
あることを知った。中身は、それなりに面白かった。

(7)秋山 満著「フランス鉄道の旅」光人社(1998)
コルシカは小さな島でありながら、全島を網羅してはいないが、鉄道が走っている。著者は、元高校の
地理の先生で、引退されておられる方である。鉄道好きで、鉄道で旅行されるのは当然としても、
12月という多くのホテルさえも閉まっている、日も一番短い時期に、奥様同伴で、ホテルの予約無しで、
しばしば暴風雨に遭い、大変苦労されている。大変能率の悪い旅行をされているのにも拘らず、
特に苦情も述べておられず、むしろ楽しんでおられる。私の旅行の仕方と全く対極のようなやり方で
旅行を楽しんでおられるところに感心する。奥様も文句も言わず、付いていかれるあたり、日本の古い世代の
女性の良さが感じられる。

(8)雑誌「旅(2009年9月号)」新潮社
「サルデーニャ島とコルシカ島、ふたつの夏休み」という副題がついているので、旅行後、購入して見た。
日本人のほとんど行かないと思われる両島についての特集に驚く。美しい写真と、取材箇所のマニアックさも
興味深い。行く前に発行されていたら、参考にしていたのにと思う。

(9)メリメ「マテオ・ファルコーネ」
この話は、原作を読んだわけではない。文学上でコルシカを語る上で、非常によく知られた衝撃的な話で
あることを、田之倉の本を見て初めて知る。たまたま、旅行から帰って留守中の新聞を見ていたら、
2009年6月7日の朝日の朝刊に筒井康隆が紹介している。何と、鈴木三重吉が「赤い鳥」で「父」という題で
紹介している(1932年5,6月号)から、三重吉も衝撃的な話と捉えたのだろう。
(羊飼いのマテオ・ファルコーネは、警察に追われている男をかくまってやる。ところが彼の十歳ほどになる息子が、
やってきた警官に男の居場所を教えてしまう。褒美の銀時計が欲しかったのだ。家に戻ったマテオは、裏切り者
の息子を外につれ出し、祈りを唱えさせ、泣いている息子を銃で射殺してしまう。「あなた。あの子に何をしたの」
と叫ぶ母親に、マテオは「裁きをつけたんだ」と答える。)「カルメン」などの著作で有名なプロスペル・メリメは、
あちこち旅行して作品を書いたそうであるが、これもコルシカに旅行したときに聞いた話を元にしているといわれる。


■成田からアジャクシオまで
成田までは、いつものように車で行き、預ける。新型インフルエンザの流行のためか、多少騒ぎは
収まりかけた時期ではあったが、キャンセルした人が多いせいか、空港は大分空いていた。成田発の
全便の中で、一番遅い21時55分発のパリ行に乗る。乗客が少ないためか、エアフランスとJALの
共同運航であった。そのためか、乗客はほぼ満員であった。
いつものように、外貨交換のレートの写真を撮り(et1)、ドルとユーロはむしろ日本で換えた方が有利
だという話を信じて、7万円交換する。すでに、300 Euro余りは、以前の使い残しで持っていた。
当地ではなるべくクレジット・カードを使う予定でいたが、現地で、クレジット・カードがどの程度使えるか
不明であった。パスポート検査を済ませて中に入ったら、また、外貨に交換する銀行があるので、
交換レートの写真を撮る(et2)。2つの交換レートをよく比較すると、ドルとユーロ以外は、
すみ分けされていて、前者では欧米諸国、後者はアジアの通貨への交換となっている。また、ドル、ユーロは
前者の方が有利であり、1Euroにつき2.03円も違う。日本における為替交換レートはどこの銀行でも同じで
あったが、いつからか変わっていることを、初めて認識する。最近、成田で、外貨に交換したことがなかった。
なお、この日のネットで調べた円-->Euroのレート(新生銀行)は133.69円であった。
シャルル・ドゴール(通称、ロワシー)空港には、予定通り、朝の4時過ぎに着く。7時間、パリの時刻が、
日本の時刻から遅れているので、日本時間では11時過ぎということなので、夜が短すぎて、寝られないことはなく、
その日のうちに、他のヨーロッパの、ほぼ全域に、その日のうちに行けるので、大変便利な便で、愛用している。
コルシカに行くには、国内便に乗り換えなくなければならないし、国内便の多くは、バスで約1時間離れた
オルリー空港から出るので、一端荷物を受け取って移動しなければならないのが不便である。距離はやや短いが、
成田と羽田のような関係にある。以前は、このバスは、無料であったが、今は、片道19 Euro払わねばならない。
オルリー発9時20分で、約1時間40分の飛行でアジャクシオに着き、車を借りて、島を廻る。


■旅行先
コルシカは地中海に位置するフランス領である(map1)。日本の広島県程度の大きさで、中央は山岳地帯で
あるが、極端なことを言えば、島の中央(例えば、コルテやアレリア)に基点をとれば、ほとんど全ての所は、
日帰りで観光ができる。したがって、同じような所(近隣の場所)を、2度にわたって訪問したので、
日付順ではなく、場所毎にまとめた。地図上で(map2)、宿泊した場所5ケ所を赤丸で示し、その他訪れた
場所の名称などを黒字と黄字(小さな場所)で記した。薄青の線が主要幹線道路である。

map1 map2